決算変更届と役所~3~
前回は、決算変更届が期限までに未提出である場合の、昨今の役所の対応について記載しました。
もちろん、期限や法令を守るということは、それなりにコスト(時間や金銭的なデメリットと捉えても良いかも知れません)が発生します。
今回は、期限や法令を守る場合と、守らない場合でのコストを比較していきたいと思います。
建設業法で定められた内容である以上、例えば、決算変更届を数年分をまとめて提出する行為は、それ自体が建設業法違反となるのですが、ときおり、「まとめてやったほうが楽やろ?」と仰る方がいます。
多少なりとも建設業許可関連の業務を行ったことのある行政書士であれば、「いえ、逆です。」と返答すると思います。
確かに、「5年分まとめて提出する=役所に行くのが5年に1回で済む=時間の削減になる」、「毎年作業する時間を取られずに済む=時間の削減になる」「5年に5回、行政書士に依頼するより、まとめて依頼したほうが、面談時間も少なくて済む」という発想は分からないでもないのですが、5年分の資料集めは非常に大変だと思います。
資料がなくては、作成を進めることはできませんから、いつまで経っても終わらないということになります。
そもそも、決算変更届を提出するにあたって、添付すべき納税証明書は、直近3年分しか発行されません。
「そういうときのための行政書士ではないのか?」もちろんそうです。
添付すべき納税証明書が直近3年分しかなくとも、建設業を専門でやっている行政書士なら、役所に問合せするなり、元々知識としてしっているなりで、きちんと対応してくれるでしょう。
しかしながら、こういったまとめて提出するという案件に対しては、毎年期限までに提出している決算変更届の料金より高額な料金を請求することになるかと思います。
理由は、まとめて提出するというのは、毎年期限までに提出する場合に比べて、提出すべき書類が増えたり、窓口で時間をとられることになるため、行政書士側としてもコストが多く発生することになるため、毎年届出をしている建設業者と同額では請け負えないというものです。
もしくは、そもそもまとめて提出するという案件を抱えても、行政書士事務所としては、メリットよりデメリットが多いと判断することもありますので、先方から断ってもらうためという行政書士もいるようです。
逆に、比較的安価で請け負う行政書士もいるでしょう。
仕事が欲しい行政書士であれば、そういった案件でも定額で受けてもらえる場合もあると思います。
ただ、建設業の業務に慣れている=数をこなしている行政書士であれば、既に請け負っている業者と比較して、安価に仕事をするということは、基本的にないと思います。
他の適正な金額を払って依頼してくださる業者様に失礼になりますし、プロ意識がある行政書士であれば、依頼事項を完璧にこなすからこそ、適正な金額を請求することになるでしょう。
「建設業の業務にチャレンジしたいけど、まだお客さんが来たことがない→値段を下げよう」と考えた行政書士に、業務に慣れた行政書士が、難易度が高いと判断した案件を信頼して任せることができるでしょうか?
また、まとめて5年分の決算変更届を提出するときに、一番不安なのは、更新に間に合うかという点です。
例えば、事業年度が1月1日~12月31日の会社が、平成26年2月1日に許可を受けた場合、平成31年1月1日までに更新申請が必要ですが、その場合、以下の5年分の決算変更届が必要になります。
・平成25年1月1日~平成25年12月31日
・平成26年1月1日~平成26年12月31日
・平成27年1月1日~平成27年12月31日
・平成28年1月1日~平成28年12月31日
・平成29年1月1日~平成29年12月31日
※平成30年1月1日~平成30年12月31日の決算変更届に関しては、更新の際は、事業年度終了から4か月未満ですので、必要ありません。
上記を見れば、更新まで余裕があるように感じるかもしれません。
ですが、それは、平成29年の事業年度終了後、速やかに決算変更届に着手した又は依頼した場合です。
本来、平成29年分の決算変更届の提出期限は、平成30年4月30日です。
そのタイミングに間に合うように依頼されれば大丈夫でしょう。
ですが、そろそろ更新の申請をしないとなぁと、平成30年の暮れ頃に着手又は相談されても非常に厳しいと言わざるを得ません。
個人でやるのもかなりの時間をとられますが、行政書士に依頼する場合、
・普段から建設業業務に慣れ親しんでいる行政書士
→定期的に入ってくる他業者の業務をこなしながら、5年分の決算変更届を請け負うのは非常に大変ですし、更新申請まで依頼を考えるなら、なおさらです。
→結果として、支払うべき料金が上がる、又は、お断りされてしまう可能性が高いと思われます。・新人行政書士等の比較的時間に余裕がある行政書士
→5年分の決算変更届や更新申請に充てられる時間は、上記の行政書士より、多いと思われます。しかし、難易度が高い業務を、締め切りギリギリでこなすことができるかは、未知数です。
→結果として、報酬は安価で抑えられるが、更新申請が間に合うかは不透明。間に合わなければ、再度新規許可申請となります。ちなみに、更新に間に合わなかった場合、新規許可申請を行い、無事許可取得できるまでは、建設業許可がない状態になりますので、工事の施工金額等によっては、請け負うことができない工事が出てくることもあります。
つまり、5年分の決算変更届をまとめて提出するほうが、毎年提出するより楽だ(=コストがかからない)と言えるのは、新人行政書士等に5年分まとめて依頼を早い段階でするときだけです。
もちろん、新人行政書士であっても、優秀な方は大勢います。
ですが、初めてこなす業務でミスを一切しないというのは、難しいと思われます。
ミスのない書類を業務歴の浅い行政書士が作成するには、調べたり、役所へ問い合わせたりと時間がかかると思います。
しかし、ギリギリで依頼されてしまうと、その時間が捻出できなくなってしまうでしょう。
なんとか受理はされたものの、出来上がった書類の内容が実態とかけ離れていれば、他者に閲覧された際に、適正な評価を得るのも難しいでしょう。
要するに、確実性はないということです。
毎年きちんと提出すれば、確実にコストは抑えられますが、複数年分をまとめて提出するのは、大半の場合、コストがかかります。
だからこそ、建設業許可に関連する業務を行う行政書士は、お取引頂いている業者の方に、きちんと毎年提出したほうがいいことを伝えます。
そして、きちんと毎年提出している業者であれば、処分を受けたり、追加で他の書類を要求されることもありません。
役所が少しずつ厳粛になっていると、今回のコラム冒頭に記載しましたが、法令を遵守する業者にとっては、何も困ることはないのです。